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2017年 04月 14日
あるミュージシャンの肖像。

 一つの町のことを生涯歌い続けた歌手。それがチェット・サラシーノだ。


 彼は生まれ育った町のことを憎み、そして愛し続けた。少年時代に町を出て(どうやら中学校も卒業していないようだ)、ありとあらゆる仕事をして彼は生き続けた。なぜ町を出たかについては多くの評論が残っているが、大方の想像通り、両親との不和につきるようだ。日頃から義理の弟ばかりが寵愛されていると感じていた彼は、ある決定的な事件で、家を出ることを決意した。そして愛に満たされた「約束の地」を探すかのように、各地を転々とする人生を選択した。その姿をヘディ・ウエストの名曲『500マイル』の歌詞に重ねる向きも多い。


 だが、そもそも彼は、弾き語りの歌手には不可欠とも言えるギターを弾くことさえしなかった。彼が持つ自らの思いを伝える術。それは鍵盤を弾いて、歌をうたうことだけだった。


 ホーボー=放浪者だから、定まったすみかなどない。当然、ピアノを持つことは不可能だ。だから、彼は、たどりついた町の酒場に入り浸り、顔なじみになって隅で埃をかぶったアップライトピアノを使わせてもらう、というまどろっこしいやり方で演奏をし、興が乗れば歌をうたった。


 あのクソみたいな家で、唯一俺が安らいだのはピアノを弾いているひとときだけだった。


 晩年のインタビューで彼はそう振り返ったことがある。


 田舎町の名士の家で幼少期を過ごした彼には、自由に弾いていいピアノがあり、まともな練習をしなくてもショパンのピアノのための小曲くらいは上手に弾いて見せた。「勉強」「訓練」を極端に嫌がったため、音符はほとんど読めないが、音感が抜群に良かった。


 俺はクラシックは好きなんだ。ただ、誰がどの曲を書いたかとか全然わからないんだ。母親が日がな1日かけているレコードを聴きながら、その曲をピアノで弾くのが俺の日課だったんだ。


 しかし彼のうたう曲はクラシックとは似ても似つかぬ、まさにカントリーミュージックに分類されるべきものばかりだった。


 ティーンエージャーの頃からブルーカラーたちと交わる日々の中で、それらを耳にして、取り込む機会は自然にあったはずだ。だが、それらの音楽のどこに惹かれて、自らもうたうようになったのか、彼は生涯語ることはなかった。


 だってあんたいま俺の曲を聴いてたんだろ。それで十分じゃないか。


 晩年、半ばタブーとなっている質問を果敢に投げつけた若手の女性インタビュアーは、苦い微笑みとともにそう答えられた。


 多分、チェットにとって、カントリーミュージックは、掛け値なしに「それだけ」のものだったんだろう。いつのことかはわからないが、彼が何かを表現したい、と思った時、偶然、彼の耳に入ってきた。それだけのだったのだ。


 だが、耳に入った音を彼は大切に自分の中に取り込み、育て、独自のものにしてから吐き出した。


 チェットの代表曲『コヨーテの朝』は、センチメンタルなイントロから始まり、リーディングポエトのような静かで、滑舌の悪いつぶやきが続く。


 日々のほとんどをうっくつして/歩く老いたコヨーテは/びしゃびしゃぬれる草むらで/体をぶるりとふるわせた。/さあ、もう決めたんだ/歩き続けるしかないじゃないか/抜けてきた街のうねる鼓動を/雲の間にさす光のことを/向日葵咲く白い午後を/記憶の底にしまい続けて。


 彼にしては珍しく長い歌詞は、老いたコヨーテの回想に終始する。老コヨーテは言うまでもなく、チェット自身の投影だ。そして、捨ててきたはずの、帰ることのない、町の美しい光景をひたすら並べ立てていく。


 あるいはウディ・ガスリーのように、行く先々で女性と浮名を流し、即興で歌を作り続け、ついにはアメリカの準国歌とも呼べる曲を作る「要領の良さ」あるいは「器の大きさ」があれば、チェットはスターダムを駆け上がったかもしれない。実際、彼が残した曲は、数多くのミュージシャンにカバーされている。だが、不思議なくらいオリジナルの彼の存在にスポットライトがあたることはない。


 理由は簡単だ。彼の弾き語りは、一言で言えば、華がなかったからだ。しかも分類がしにくい。鍵盤の弾き語りでカントリーのヒットチャートを駆け上がるのは至難の技だし、だからといって、R&Bやポップミュージックとして聞くには、地味すぎた。だから、その良さを知るのは、音楽の玄人以外は、酒場の酔いどれたちだけだ。彼らだって翌朝にはチェットの曲なんて忘れている。そういえば、昨夜は随分懐かしい気分になって酒が進んだな、彼の曲はそんなくらいにしか取り扱われていない。


 でも悪くないじゃないか。夜に、涙を流して聴いてもらって、朝になったらさっぱりと忘れて気分良く仕事に出て行ってもらう。夜ってのは、昼の疲れを癒すための時間だ。俺の歌は、夜の歌なんだよ。


 そう語る彼も、また夜に自らの満たされぬ思いを癒してもらい続けた。一言でいえば酒癖が悪く、行く先々でトラブルを起こした。彼の音楽に惚れて、アルバムを作ろうと群がったレコード会社の担当者たちは、その延々と続く恨み節と時折振るわれる暴力(といっても彼はごく非力だったので、大した肉体的被害はなかったが)に辟易した。


 俺は、こだわりの人なんだ。こだわりってわかるかい。ひとつのことに執着するってことだ。俺は手放せないものがありすぎるんだ。ピアノだってそうだ。俺はギターなんてクソみたいな楽器全然認めない。でもさ、執着がなきゃ、愉快に毎日暮らせる。歌なんてうたわなくても済むくらいにね。


 女っけもなく、粗末なモーテルを転々とし続けたチェットは、コヨーテのように鬱屈はしていたが、ピアノが弾ける限り、絶望はしていなかった。いや、むしろ楽しんでいた。場末の酒場で、それまで騒いでいた酔客たちが彼の曲に聞き入り、終わるやいなや、一杯奢らせてくれと周りに群がるとき、彼は嬉しそうに微笑んでいた。その後酔って、ろくでもない結末になることも多かったのだが。


 晩年、音楽プロデューサー、ダン・コクチェフの粘り強く交渉に折れる形で残した、たった一枚のスタジオアルバム『サンフランシスコ』は、その投げやりな題名(ダンがレコーディングの少し前に遊びにいったという理由だけでつけたらしい)に相反して、深みのある曲が続く。


 最後の曲は、彼にしては珍しく、カバー曲だ。しかもフーの「A Quick One While He’s Away」というポップソングだ。ご存知の方も多いだろうが、これは複雑な幼少期を送ったピート・タウンゼントの実体験を元に作られた曲で、最後は”You are forgiven”、すなわち「あなたは許された」というフレーズの連呼で終わる。


 俺はね、結局許されたかったんだよ。母親にも、父親にも、故郷にも。でもできなかった。それは俺のこだわりのせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、いいじゃないか。俺は少なくとも、生きて、歌い続けた。


 チェットは、アルバムのプロモーションのインタビューでそう語っている。アルバムを出して、2年後、彼は病院のベットで息を引き取った。最後まで、故郷のバーモント州の小さな町を再訪することはなかった。


 

 


 

 



# by na2on | 2017-04-14 00:34 | よりみち。
2015年 09月 21日
ケネス、周波数はいくつなんだ

俺の脳はまるで働かないし、感覚は麻痺しているし、空気だってまるで読めない
リチャードは呆れ果てての撤退は無関心とは別物だって言ったさ
ケネス、俺にはどうしたって周波数がわからない

そう、お前は漫画の主人公みたいに笑う、目には目をってことだ
そしてアイロニーってのは若気のいたりみたいなもんだって言う
でも俺にはどうしたって周波数がわからない

そしてまるで鎧みたいに俺たちの期待を背負っているんだ
そしてヴァイオレントグリーンのシャツを着こなすんだ
でも俺にはどうしたって、周波数がわからない。

ケネス、周波数はいくつなんだ


♣ ♣ ♣


What's the frequency, Kenneth?


What's the frequency, Kenneth?
is your Benzedrine, uh-huh
I was brain-dead, locked out, numb,
not up to speed
I thought I'd pegged you an idiot's dream
Tunnel vision from the outsider's screen
I never understood the frequency, uh-huh
You wore our expectations like an armored suit, uh-huh

I'd studied your cartoons, radio,
music, TV, movies, magazines
Richard said,
"Withdrawal in disgust is not the same as apathy"
A smile like the cartoon,
tooth for a tooth
You said that irony was the shackles of youth
You wore a shirt of violent green, uh-huh
I never understood the frequency, uh-huh

"What's the frequency, Kenneth?"
is your Benzedrine, uh-huh
Butterfly decal, rear-view mirror,
dogging the scene
You smile like the cartoon,
tooth for a tooth
You said that irony was the shackles of youth
You wore a shirt of violent green, uh-huh
I never understood the frequency, uh-huh

You wore our expectations like an armored suit, uh-huh
I couldn't understand
You said that irony was the shackles of youth, uh-huh
I couldn't understand
You wore a shirt of violent green, uh-huh
I couldn't understand
I never understood,
don't fuck with me, uh-huh



https://youtu.be/fgE_Ffc4I8A

# by na2on | 2015-09-21 02:05 | よりみち。
2014年 12月 09日
日曜日の朝。
日曜日の朝

朝が、やってきた。
部屋の中まで夜明けを連れてきて、
ぼくを、落ち着かせなくする。
いつも通りの、日曜日の朝。

すぐ後ろには、意味もなく使い果たした時間。
でも、君のすぐ後ろには、世界が忍び寄っているんだ。
いつだって、誰かが君に語りかけている。
気にしないことさって。

朝が、やってきて、
ぼくは、どこかへ落ちて行く。
そんな気持ち、知りたくもないのに、
日曜日の朝はやってくる。

ちょっと前に、君は道をぜんぶ渡ってきたから、
もう、世界は、君の後ろにいるんだ。
いつだって、誰かが君のまわりにやってくる。
でもね、もう、気にしなくていいんだ。

この日曜日の朝に。
この日曜日の朝に。
この日曜日の朝に。
この日曜日の朝に。

Sunday morning

Sunday morning brings the dawn in
It's just a restless feeling by my side

Early dawning, Sunday morning
It's just the wasted years so close behind

Watch out, the world's behind you
There's always someone around you who will call
It's nothing at all

Sunday morning and I'm falling
I've got a feeling I don't want to know

Early dawning, Sunday morning
It's all the streets you crossed not so long ago

Watch out, the world's behind you
There's always someone around you who will call
It's nothing at all

Sunday morning
Sunday morning
Sunday morning
Sunday morning
Sunday morning
Sunday morning
Sunday morning
Sunday morning

http://youtu.be/qNO_IO5tIwI

# by na2on | 2014-12-09 19:53
2013年 07月 13日
She's Real
彼女はほんもの。

ぼくは、なんでもできたはずなのに。
もう、かしこくふるまうことができなくなった。
君は、ぼくに別れを告げたっていいんだ。
でも、ぼくは知っている。君のこころは、嘘を言っていることを。
だからおしえてほしい。
君をだきしめるために、何をしたらいいのか。

君がほほえむたびに、ぼくはこわされていく。
どうして、こんなことができるんだい?
ぼくのこころは、残酷ですらあったのに。
もう、いまは、君がぼくのルールをどんどんこわしていくんだ。
どうして、ぼくはこんなにも、君によりかかりたいと思っているんだろう。

今夜は暑すぎて眠れないから、一晩中歩くことにしたんだ。
ジェイミーが教会の階段に座ってビールを飲んでいる。
火災報知器が鳴る5時、リヴィングトンを歩いている。
イーストリバー公園で踊りながら、ぼくは6時になるのを待っている。

夜中の2時半に2番街にたどり着いたんだ。
85丁目は眠れない人たちであふれかえっていた。
でも、君はもう寝てしまっていたんだね。
ぼくは知っている。彼女は、ほんものだ。
ぼくの思いも、ほんものだ。
隣の街路に目を向けると、君の影法師が見えたんだ。
ぼくと一緒になって。


http://www.youtube.com/watch?v=11cn1oSwVPU

原曲は Kicking Giant
ニューヨークの伝説的なバンド。
ギター&ボーカルの Tae Won Yu は現在グラフィックデザイナーとして活躍中だそうです。

“She’s Real”

I could try anything
but I'm not as smart as I used to be
you want to tell
my heart goodbye
I know, I know, I know
your heart don't lie
tell me what I gotta do
to be good for you.

When you smile
you're breaking me,
I don't know how
you put this change in me
I used to be so cruel
but now it's you
who's breaking all the rules
tell me why I'd want to hold on to you.

Tonight it's much too hot to sleep
and I walked all night
Jamie's drinking beer on the church steps,
five o'clock fire alarm. 
Now I am walking down Rivington
East River Park
swinging on swings in the dark
I'm waiting for six o'clock.

I was sleepless second avenue
everybody's out tonight
85 at half past two
but you're sleeping by yourself...
She's real she's real I know my love is real
but from a block away
I can see your shades drawn down and black.
Be my baby.

# by na2on | 2013-07-13 20:18 | よりみち。
2013年 07月 12日
くそったれイングラン。
"Inglan is a bitch" Linton Kwesi Johnson

W´en mi jus´ come to Landan toun
Mi use to work pan di andahgroun
But workin´ pan di andahgroun
Y´u don´t get fi know your way around
Inglan is a bitch Dere´s no escapin it
Inglan is a bitch Dere´s no runnin´ whey fram it

ランダンにオレはやってきて
地下にもぐって仕事する
地下で仕事していると
まわりのことなんてまるでわからなくなる
くそったれのイングラン、逃げ場なんて、ない
くそったれイングラン、どこにも逃げらんない

# by na2on | 2013-07-12 22:51 | よりみち。