2010年 04月 11日
六義園 時間に磨かれた人工庭園。
 徳川時代の江戸は、その市街地の50%以上の面積を武家屋敷が占めていた。中でも大きな屋敷の敷地内には、庭園がこしらえられ、最盛期には100以上を数えた。

 文京区の北のはずれに位置する六義園は、そんな江戸期の庭園を代表する大名庭園とされる。明治時代、三菱の創業家の手に渡った後、東京に寄付され、誰でも入れる庭園となった今も、その回遊式庭園としての風格は十分に残っている。

 和歌に詠まれた地を再現するなどした景勝地が、いたるところに配置され、池へ水が出てくる場所に「滝」を、築山に「峠」まで作り出した園内には、箱庭的宇宙とでも言うべき、ひとつの世界が作り出されている。ひとつひとつの要素が、互いの絡まり具合まで含めて当初から緻密に計算され、時間をかけて熟成した「和」の風景だと言えるだろう。

 同時に、ある程度の逸脱、木々の成長や繁茂といった要素も受け入れるだけの余白も作られているように感じる。

 いわゆる西洋的な、征服する、という姿勢で自然に対峙するのではなく、むしろ彼らと共存、もしくは一体化してしまおう、といった思想。それは、先述の洗練された景観だけでなく、そこから一歩奥に足を踏み入れた、わさわさと木々が枝を茂らせる裏道にも色濃く反映されているように感じる。うっそうとした木立を歩くと、ここもまた、庭園をゆらゆらと回遊する中で欠くことのできない一要素として、無理なく組み込まれていることを感じるのだ。

 六義園の、適度な調和を持った木々の連なりと水のありさまは、長い時間をかけて、人と自然が作り上げてきたものだ。

 新緑の季節のある日、ベンチに座ってぼんやりと桜の木を眺めていたら、白い杖を持った人が、付き添いと連れ立ってやってきた。桜の木を手で触れている。

「もっと太いんですよ。ここは窪んでいるだけで」

 付き添いの人がそう教えている。その人は、ゆっくりと手を窪みの中から出して、先へと伸ばす。

「大きな桜の木です」

 ざらざらした木肌をその人は触り続ける。その木を知り尽くそうとするかのようにずっと、ずっと触り続ける。葉桜となった木からは、花びらが舞い落ち続ける。

 六義園では、確かに自然が息づいている。完成してから長い時間を経て、名舞台の見立て、という工夫が持つトレンド的な意味合いは少々薄れたかもしれない。しかし、考え抜いて作られた人工庭園には、時間に磨き抜かれた自然が根付いている。

 その、木々やみどりや水のはっきりとした息づかいは、現代の人々をひきつけ、園内をゆらゆらと回遊させる魅力を持っているようだ。

 ちなみに文京区も名公園の密集地だ。小石川植物園、小石川後楽園は言うに及ばず、椿山荘隣の緑濃い新江戸川公園、アールデコ調のエントランスが渋い元町公園、人工地盤の上の給水所公苑など、この近くに住めば通うだろうな、と感じさせる素敵な公園が揃っている。また、六義園から北へ少し行ったところの旧古河庭園も洋館と芝生の西洋式庭園と、日本庭園が共存する素敵な庭園だ。

 ♣♣♣

六義園(りくぎえん)
*所在地:文京区本駒込6-16-3 TEL03-3941-2222(六義園サービスセンター)
*開園時間: 9:00〜17:00(入園は16:30まで)
*休園日: 年末・年始 (12月29日〜翌年1月3日まで) ※イベント開催期間及びGWなどで休園日開園や時間延長が行われる場合もあり。
*入園料: 一般及び中学生300円、65歳以上150円、小学生以下及び都内在住・在学の中学生は無料。団体割引等あり。 *みどりの日(5月4日)、都民の日(10月1日)は入園無料。
*アクセス:JR・東京メトロ南北線「駒込」下車 徒歩7分/都営地下鉄三田線「千石」下車 徒歩10分

ミシュラン(☆3つが最高)
*ひとり: ☆☆  六義園の最寄り駅、駒込は味わい深いお店も多い場所。駅の反対側の古河庭園と染井霊園周辺もワビサビ利いてます。
*ふたり: ☆☆☆ 画学生とおぼしき女の子ふたりづれが山の上で並んで絵を描いているのをみかけたことがあります。渋いですね。
*おおぜい:☆☆  団体の方々が結構います。故郷の両親や親戚といった人たちをアテンドしてここに来るのは、オツだと思います。
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by na2on | 2010-04-11 21:15 | 公園案内。


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