2010年 04月 13日
水元公園 エバーグリーン・ブルース
 地元の人に聞くと、水元公園はもともとは昼なお暗いだだっ広い公園で、危険な印象の強い場所だったそうだ。ずいぶん整備され、晴れやかな印象の現在の姿からは、当時の妖しげな雰囲気は希薄になっているが、それでもまだ、この広大な公園では、他では味わえないワイルドな気配を感じることができる。そして、同時にここに集う人々もまた堂々と自らのあるがままを放出してもいる。

 前日までの雨雲がきれいにぬぐい去られた初夏の日、この公園の表玄関とも言える、水元大橋脇の噴水広場の入り口に立ってみたことがある。

 目に入るのは、いい気分で酔っぱらって道行く人々に悪態をつくオヤジ。そのオヤジに声をかけられて、怖がる風もなく普通に会話をする少年、顔見知りとおぼしきじいさんをからかって、くすくす笑いあうおませな女の子ふたり組、だが、じいさんも彼女たちにいじられてまんざらでもなさそうだ。草はらの上をはいはいする赤子。その脇でのんびりと座る母親。彼らは、皆、自然にこの公園に集って来て、時に絡みあいながら、それぞれの時間を過ごしているようだ。

 公園の横には広い川が流れる。四方を緑に囲まれた川辺に立つと、水面をわたってきたそよ風が出迎える。実は釣りの名所としても有名なだけあって、老若男女が釣竿を持って並ぶ川っぷちを歩くと、背の高いラフな草むらの先にはメタセコイアの森が見える、そのまた向こう、ずいぶん歩いた先には、ポプラ並木と草はらがある。

 その広大な草はらにはじめて行ったのは、霧のような小雨の降る晩秋だった。芝生全体に高原にいるかのようなもやがかかり、かなたのポプラの木々が、うっすらと浮かぶ。中へ入っていくと、水滴を含んだ背丈の高い芝生がたちまち靴底を湿らせる。背後の木立で雨宿りをするカラスのかあ、という鳴き声が水に満ちた空気の中に響く。ブルーノ・ムナーリの絵本の舞台に入り込んでしまったような、都会にいることが信じられなくなる空間だった。

 その雨の日の草はらの様子を頭に思い浮かべながら、頭上を見上げると、木立の葉っぱが陽に照らされてちらちらと揺れている。それまでぐずついた天気続きだったところに、久しぶりに現れた太陽を、人だけでなく、みどりも思う存分に受け止めて、ほっと息をしているようだ。

 子どものころ、空を見上げたら、今日みたいに日差しがきゅんとさしこんできて、こんな風に葉っぱが揺れていた日があったな、と思い出す。そんな日にがりがり食べたアイスキャンディーはおいしかったな、と。

 ぼくが生まれ育った町にも、川が流れ、木々が生い茂るだだっぴろい公園があった。ぼくたち子どもは、口にこそ出さないけど、ことあるごとにそこに集い、走り回ったり虫をつかまえたり、屋台のたこ焼きを食べたりしていたその公園のことをとても大切に思っていた。

 大きくなっていくにつれ、整備され綺麗にはなったが、それでもどこか手付かずの「やばさ」も湛えた公園のグランドで、ぼくたちはなれないセブンスターを吸ったり、がんばって公園から出てスナックへ潜入したりして、自分たちなりのデビューを果たしていった。要するにその公園は、地元の子どもたちにとっての「庭」だったのである。

 この公園もまた、ワイルドではあるものの、居心地がいい。お兄ちゃんや女の子たちや赤子が大きくなっても、いつだってそこで体験したことを思い出せる、そして、いつだって戻ってこれる。本質的にはそんなやさしい場所なんだろう。

 考えてみれば、ここの最寄り駅は金町、亀有という、ざっかけなくもブルージーな町である。気やすいけど、甘えた気分ですり寄るとぴしゃりとはねかえされるような、そんな町に広がる公園は、そこに自然に人が集まってくる場所であると共に、なかなかたどり着くことのできない内奥部に、しんとした空気を醸し出す草はらも持ち合わせている。親しみやすさ、野性味、そして内省。なんだか、酔っ払いオヤジのだみ声がブルーズに聞こえてきた。

 ここは、町の人々のハートとソウルが欲し、作り上げてきたオアシスなのだ。

 ♣♣♣

水元公園(みずもとこうえん)
*所在地:葛飾区水元公園3-2
アクセス:JR・地下鉄千代田線「金町」から京成バス(戸ヶ崎操車場または西水元三丁目行き)「水元公園」下車 徒歩7分
*その他付帯設備:釣り人には有名な場所。公園周辺には釣り具関係のお店が点在。

ミシュラン(☆3つが最高)
*ひとり: ☆☆☆ 釣りはもちろん、サイクリングにも適した公園だと思います。園内を歩ききると、相当足にきます。
*ふたり: ☆☆  他の公園に比べ、カップル率はやや低め。どちらかと言えば渋めで売っている公園と言えるでしょう。
*おおぜい:☆☆  中央広場は晴れた日の休日には、大勢の人でにぎわいます。必要なものはあらかじめ用意するのが吉。
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by na2on | 2010-04-13 00:58 | 公園案内。


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