2010年 04月 14日
自然教育園 森の品格。
 自然教育園は、白金のうっそうとした森だ。

 もとは隣の庭園美術館と併せて、さる皇族の住居だったそうだが、戦後に、今のような誰でも入れる場所となった。ちなみに全域が、天然記念物(!)および史跡に指定されている国立の施設だ。だから、と言ってはなんだけど、いわゆる集客のための努力的なものはあまりなされていない。

 そもそも、園内の看板に、武蔵野の原生林の雰囲気を残すべく、できるだけ手を入れないようにしている、と明記されているだけあって、園内の木は名札こそかけられているものの、同じ種類で並べられることもなく、雑然と枝を伸ばしている。だから、江戸時代の回遊式庭園の名残とされる巨大な松の枝に、モミジの葉っぱが覆いかぶさるなどという光景も見られる。一事が万事、池にかかる橋に立っても、寄ってくるのはいまひとつ愛嬌に欠ける亀だ。美しい鯉はいない。桜や梅といった木が並ぶわけでもないし、ごろんと寝転べるような芝生があるわけでもない。「華」というものにあまりに無頓着なのである。

 でも、にじみ出てくるような品のある場所だ。

 園の中心部の池を横目に見ながら小道へと入り、草葉かきわけるように歩く。上を向いて、木々の枝が青空を背景に描く模様を見る。下を向いて、路傍に生える趣味の良い陶磁器みたいな草花を見る。ぐるりと見渡すと、木々の向こうに、背の低い草が群生する湿地が広がり、その手前に小川が流れているのが見える。

 ゆっくりと息を吸って吐き出すと、この空間を包む空気の濃さ、匂いの鮮やかさに気づく。簡素な花壇の回りを、豪族の屋敷跡とされる盛り土の脇を、ゆるゆる歩くと、見たことすらない、本物の武蔵野の森のほんとうにチャーミングな部分を大事に抽出された場所のように感じてくる。一流の腕を持つ店主が自分で選んで煎った豆をドリップしたコーヒーのような、いささか渋めの味わいとも言えるだろうか。

 自然を都心に残す、という至極まっとうな使命がこの公園にはある。そのことに誠実に対する、すなわち、人々や鳥、昆虫といった生き物のために、都心に深い木立を提供し続けることの意味を考えれば、木や花にちょっと名札も付けてみるくらいで、人目をひく工夫はおしまい、となるのも必然だ。あれこれするのは余計なことだ。代わりに、自然の営みに合わせて歩みを続けていく、燃え尽きることのない静かな情熱が不可欠だ。

 池の端に建てられた小さな東屋で、虫にちょっかいを出して遊んでいる子猫の横に座って、そんな浮世ばなれしたところが面白いなあ、とぼくは思う。判る人でも判らん人でも来てくれていい、まあ最悪来なくてもいいかもしれない、という空気が園全体に漂う。

 偏屈、ではないが、すり寄ってくることもない。粋じゃない場所だ。でも、やるべきことが適切に、しかも淡々とやり続けられてきた上ではじめてにじみ出てくる、趣味の良さがある。デザインは古いが、きちんと仕立てたスーツを着て端然と立つ老紳士の雰囲気だ。

 ぼくたちがその意図に気付き、興味を持ち出して、草花や、生き物に目を凝らしだすと、園内の名札は語り始める。こちらにもこういったものがあります、あちらへいってもおもしろいかもしれません。それぞれの相関関係や、それぞれの持つ魅力まで、無駄のない解説は途切れることがない。自らが認め、大事にしてきたものへ、興味を持ってもらったことへの率直な嬉しさを含んだ、老紳士の張りのある声が聞こえてくるようだ。

 ちなみに隣の庭園美術館と芝生はこことはテイストの違う上品さを持つ都内屈指のスポットだ。目黒通りを越えた高級住宅街の真ん中にある池田山公園は、23区内では珍しい湧水による池がある日本庭園で、訪れる者まで背筋がすっと伸びるような雰囲気を保っている。

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自然教育園(しぜんきょういくえん)
*所在地:港区白金台5-21-5 TEL03-3441-7176(教育管理棟)
*開園時間:9月1日〜4月30日 9:00〜16:30/5月1日〜8月31日 9:00〜17:00 (いずれも入園は16:00まで)
*休園日:毎週月曜日および国民の祝日の翌日。月曜日が国民の祝日または振り替え休日の場合は開園し、その翌日に休園(ただし、土曜日、日曜日は開園)、年末年始(12月28日から1月4日まで)*その他臨時に休園する場合あり。
*入園料:一般・大学生300円、 小・中・高校生無料
*アクセス:JR山手線 目黒駅東口より徒歩7分/東京メトロ南北線・東京メトロ三田線「白金台」出口1より徒歩4分
*その他付帯設備:正門横の教育管理棟のディスプレイはこっていて面白い。隣の庭園美術館には芝生広場、カフェあり。

ミシュラン(☆3つが最高)
*ひとり: ☆☆☆ 園のホームページには皆さんお誘いあわせのうえ、と書いてありますが、ひとり散策だって、すごく気持ちいいです。
*ふたり: ☆☆☆ とは言っても、都心の深い森をふたりで散策するのも悪くない気分です。時間を気にせずゆっくり歩いてみましょう。
*おおぜい:☆☆  園内では飲食等禁止です。家族でくるなら、隣の庭園美術館で遊びつつ、ここの森も散策、というコースがいいかも。
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by na2on | 2010-04-14 23:43 | 公園案内。


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