2010年 04月 21日
善福寺川緑地/和田堀公園 君がいるところ。
 個人的なことだが、ぼくはこの公園のわりと近くに住んでいたこともあって、当時は頻繁に通っていた。早くに目が覚めたから、天気がいいから、特に用事もないから、と、公園に行く理由はいくらでもあった。

 公園に行くと様々な人とでくわした。朝行けばジョギングをする人や詩吟をうなる人。昼行けば寝転がる人や太鼓を叩く人、詩吟をうなる人。夜行けばタバコを吸ってたたずむ人や詩吟をうなる人。何だかうなる人ばかりのような感もあるが、実際かなりの確率でうなり声を聞いた。多分ひとりかふたりなんだろうけど姿はついぞ見たことがない。

 川沿いのある家の前にはダンボールが置かれ、奇天烈な書体で「10円」とか「100円」と書かれた値札が下げられていた。中には自転車のサドルとか、ネジといった不思議な商品群に混じって唯一まっとうな商品としてテニスボールが並べられている。テニスボールは常にたっぷりと用意されているが、そこに立った我々はすぐそばにテニスコートがある事実を確認し、ここで100円で売られている少し使い込まれたテニスボールがどこで仕入れられたかについて、思いを馳せざるを得ない。

 奇天烈な書体の書き手と思しきおじさんは、午後になると川に餌を投げ込む。カモが集まり、たちまち阿鼻叫喚の様相を示す。かわいいねえと、この餌を買うお金(つまりテニスボールの収益金だ)がどういう流れで生まれてきたのかを知らない無知なギャラリーが集まると、どこからかやってきたもうひとりのおじさんが来て囁く。

「このカモたちはね、夜になるとお台場にあるねぐらに帰るんだよ」

 カモに付いていって見たのかよ、という素朴な疑問を投げかける間もなく、彼は別のギャラリーのところへ行って「夜はお台場」を繰り返す。その目的は不明だ。

 少し昔には、この公園の周辺は、うっそうと茂る森や緑地が続く渓谷で、子供たちの格好の冒険遊び場だったそうだ。整備が進み、芝生や遊具やグラウンドが点在する今でも、渓谷だった頃の片鱗は確かに感じ取ることができる。かつて大自然を彷彿とさせるだけの、余白がそこかしこに残っているのだ。

 木々が気ままに生い茂る余白の残った、川沿いのこの緑地に、近隣の人たちは、何かと集まって、思い思いの諸々を表現したり、放出していた。

 あるとき、公園の整備のピッチが急に上がった。その直後、ぼくは引っ越して郊外に移ってしまって、この公園から足が遠のいてしまった。

 ただ、この公園が、他でもよく見る、芝生が刈り揃えられたこぎれいな緑地となったとしても、現、旧いずれの少年少女も、変わらずに集って、なにやらイケてる遊びにいそしんでいるだろう。

 詩吟やお台場はもとより、夏の日の夕暮れに見た、打ち捨てられたような野球場でノック練習にいそしんでいた少年たちや、草はらに主人たちに連れて来られて互いに匂いを嗅いだり、走り回ったりしていた犬たちは、変らず元気にやっていくだろう。だって、ここはいつだって、皆の集う場所なのだから。

 ぼくは、ここの近所に住んで、我が家の庭のように足しげく通った。ここで過ごすひとときがとても大切だった。ここで見かけた人や動物を隣人として親近感を抱いた。公園は、ただそこに存在し続け、ぼくたちを受け入れ、ぼくはたくさんのものごとを体感してきた。そうやって、ぼくは、東京に住む、ということを、実感していった。

 あなたの近所に、いい公園はありますか、とぼくは聞きたい。もうあればラッキー。無ければ探せばいい。東京にはたくさんいい公園がある。見つかったら、そこに通いつめればいい。

 気の利いたカフェやパン屋を近所に見つけるように、そうやって、ぼくたちは少しずつその土地に根をおろして行くのだと思う。

 ♣♣♣

善福寺川緑地/和田堀公園(ぜんぷくじがわりょくち/わだぼりこうえん)
*所在地:杉並区成田西1-30-27
*アクセス:京王井の頭線「西永福」「浜田山」下車 徒歩15分/関東バス(JR中野駅─吉祥寺駅)「善福寺川緑地公園前」下車/京王バス、関東バス(京王井の頭線「永福町」駅-松ノ木住宅経由-JR「高円寺」駅または地下鉄丸の内線「新高円寺」(M03)駅行)「都立和田堀公園」下車

ミシュラン(☆3つが最高)
*ひとり: ☆☆  ひとり東西に長い公園を散策するといろんなものが見えてきます。かつては前川國男設計の阿佐ヶ谷住宅も公園そばにありました。
*ふたり: ☆☆☆ 散歩したり、和田堀にある釣り堀で遊んだり、大宮八幡を参拝したり、ワビサビの利いたひとときを楽しめること請け合います。
*おおぜい:☆☆☆ 暖かい季節は園内あちこちでお弁当を広げたりする人が見受けられます。遊具もそこここにあるので子連れも楽しめる公園です。
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by na2on | 2010-04-21 06:36 | 公園案内。


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