2010年 05月 03日
北の丸公園 東京の、さくら。
 北の丸公園の芝生に平日の昼間に行くと、サラリーマンがマグロの水揚げのごとく横になっているのを見ることができる。武道館や近代美術館にはさまれた芝生は、交通の便が実は結構悪いこともあって、まさに「おさぼりさま」の隠れ家としての機能を果たしているのである。

 ここいら一帯が本当に混み合うのは、桜の時期だ。公園の向こう岸の千鳥ヶ淵緑道に善男善女が集って、そぞろ歩いていく。何も知らずに行くと大変な目に遭う。むっちりとひしめき合う人々は狭い道を一列に立ち止まらずに歩く。九段下から千鳥ヶ淵の交差点まで、その人の列が延々と続く。

 いつもはレイドバックしているボート乗り場も、この時ばかりは長蛇の列で、お堀には、ようやっと乗れた人々のこぐボートが互いにぶつかり合わんばかりの密集度で浮かんでいる。にぎにぎしく、あでやかな光景を上から見ると、江戸時代の美しい色彩で描かれた浮世絵を見ているような感覚になる。

 もちろん、ゆっくり桜を鑑賞している暇はない。警備員が止まらず歩いてくれとスピーカーで叫ぶ中、あちこちで記念写真を撮る人々の群とぶつかりつつ、通りぬけないといけない。

 それくらい、この公園一帯の桜は、見事だ。

 そぞろ歩いた日の夜、ある集まりで、ある人が、イギリスから来たお客を千鳥ヶ淵に連れて行ったという話になった。

「日本の桜だって見せてあげようと思ったんだけど、すごく混んでいて」

「ぼくも行きました。ほんと、混んでましたね」

「彼も人出の方に驚いちゃって。近くのイギリス大使館の桜見せたら喜んでいたけど」

「イエス、エンバシーノサクラ、ビューティフォー」

 ブルース・スプリングスティーンが大好きだと言うイギリス人が、大体、そういった意味のことを英語で言ってうなずいた。

 桜の季節の北の丸公園一帯は東京、ひいては日本のシンボルとなるといっても過言ではない。この公園が精一杯の化粧をする日々であり、同時に街が化粧をした日でもある。それを気軽に見に行けることが、東京に住む、ということかもしれない。

 少し前までお堀端のあるホテルが、桜の季節になると「桜が咲きました」と記した小さな広告を新聞に出していた。北の丸の桜が部屋から見えるそのホテルに宿泊するのが、東京に出てきたぼくのささやかな夢だったが、そのホテルは営業をやめてしまった。

 だからというわけでもないけど、ぼくは何時までたっても、東京にどこか根ざすことができないような不安定な気持ちを持ち続けてもいる。

 ♣♣♣

北の丸公園(きたのまるこうえん)
*所在地:千代田区北の丸公園1-1
*アクセス:地下鉄東西線、半蔵門線、新宿線「九段下」駅下車 徒歩5分/地下鉄東西線「竹橋」駅下車 徒歩5分。

ミシュラン(☆3つが最高)
*ひとり:  ☆   昼間はおさぼりさまの楽園ですが、夜は近所に住む人たちの散歩の場となっているそう。贅沢!
*ふたり:  ☆☆  お堀でのボートこぎ、なんてデートは風流だと思います。所々浅いのでこぎにくかったりしますが。
*おおぜい: ☆   北の丸公園、靖国神社、千鳥ヶ淵。皇居周辺の東京の中心にはみどり濃い空間が広がっています。
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by na2on | 2010-05-03 10:08 | 公園案内2


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