2010年 05月 04日
品川駅の東側、港南口は今でこそ瀟洒なオフィスビルが立ち並ぶが、そもそもはいささかうらぶれた雰囲気のところだったという。 ぼくの連れ合いは昔、港南の運河沿いに住んでいたそうだ。彼女の言によると、倉庫と公団住宅が並ぶ寂しい町並みには潮の香りが漂っていた。そして、運河沿いの倉庫では、湾岸の独特の雰囲気と多分家賃の安さを嗅ぎ取った人たちによって、クラブイベントが行われていた。 連れ合いは、そのうちのひとつに自転車で通い詰め、いつしかスタッフとして立ち働くようにもなった。イベントも盛り上がってくると、脇の運河に飛び込む輩が続出し、一度はレンタル品のソファまで投げ込まれたが、まあいいやと朝まで大騒ぎしたそうである。一世を風靡する直前のジュリアナ東京から嫌がらせをされたと言うのだから、なかなか人気があったようだ。 今、高浜運河を渡り、運河沿いの暗い道を歩きつづけると、周りの瀟洒なマンションやオフィスビルにまるで似つかわしくない、小さな焼き肉屋がこつ然と建っている。おそらく地上げに屈せず残った店なのだろう。しっかりと営業しており、客もかなりいるようだ。 要するにごった煮の港南方面と好対照を描くような高級住宅街、高輪の間を走るJRの線路をくぐるガードがある。タクシーの運転手さんだったら良く知っている抜け道だが、ここは制限高さが150cmくらいしかないトンネルだ。少々背丈のある男子は、冗談抜きで身をかがめて200mほど歩かなければならない。 横はひっきりなしに車が通りぬけ、上からは山手線や東海道線の電車が走る轟音が鳴り響く。首をかがめた状態だから立ち止まるわけにも行かず、黙々と歩き続けるしかない。 高輪側から、この産道のごときトンネルをくぐり抜けたところ、港南側の入り口にあたるのが高浜公園だ。 ここを見つけた時、ぼくは頭がくらくらと来た。磁場が狂っている感覚である。目の前には新幹線とJR線の高架、後ろにも新幹線と貨物線の高架、横は団地、背後には運河のたまりがある。そんな極限まで限定されたスペースに無理やり作られた小公園。と言っても申し訳程度にライドが置かれ、申し訳程度に土を盛った丘と木があるだけのスペースだ。 ここで常識的な公園の楽しみ方は、できない。水辺と言っても運河で、とろりと淀んだ水面を見て和む気分にはなれない。 連れ合いに、港南口に住んでいた時の話をいくら聞いても、どうしても町並みの様子がイメージできなかった。でも、来てみると、判る。 都会にある要素、すなわち倉庫やオフィス、飲み屋やマンションといったもの。それらはおおむね「棲み分け」が自然となされている。それぞれの語尾に「街」を付ければそこのイメージが浮かんでくる(高輪は高級住宅「街」だ)。 しかし、棲み分けが十全に行なわれないと、歪みが生じる。その歪みがこの一帯には特に顕著に現れているのだ。カテゴライズされない異物同士がこすれ合うエネルギーがとても強い。 地下鉄の駅にも近いここいらは、決して住み難い場所ではないはずだ。ただ、奇妙な空気が残る。緩衝地帯とも言うべき、高浜公園がなければ、街となる前のここで、クラブイベントを開いた人たちが感じ取ったであろう、磁力の強さを持ち続けるだけの、危うい場のままだったのかもしれない。くつろげない公園で不安定さをかき消した現在のこの地域が、いいところかどうか、は別として。 いずれにしても、東京の公園には街を街として成立させる役割もあるのだ。 ♣♣♣ 高浜公園(たかはまこうえん) *所在地:港区芝浦4-3-30 *アクセス:地下鉄浅草線「泉岳寺」駅下車 徒歩5分 ミシュラン(☆3つが最高) *ひとり: ☆☆ すっかり奇麗になっていますが、昔の風情のある町並みの名残を見つけに歩くのも楽しいかも。 *ふたり: ただ、カップルで歩く、というには向いていません。近くの芝浦中央公園などで遊ぶが吉です。 *おおぜい:☆ 本文内で言及した焼き肉屋さんは、ちょっとした名店として知られています。いい雰囲気です。
by na2on
| 2010-05-04 05:58
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