2010年 05月 05日
等々力渓谷公園 あっちがわへ。
 トドロキケイコク。

語感もいいし、リズムもいい。心なしか秘境感も満載で、いい名前だと思う。トドロキケイコク。

 そんな等々力渓谷、実際は護岸された小川を10分も歩けば、走破できてしまう小さな渓谷だ。途中に建てられた案内板には「都会の音を聞く」という短文が刻まれており、車の走り去る音とかを木々のざわめきと一緒に聞ける場所ですよ、みたいなことが書いてある。

 イメージの中のトドロキケイコクでは車の音なんか聞こえてこないんだが、真上を環八が横切る現実の等々力渓谷では確かに聞こえてくる。しかも結構激しく。世田谷区にある渓谷は、秘境ではない。

 でも、23区内にある秘境モドキ、と片づけるには少々惜しい魅力を持っていることも確かだ。

 考えてみれば、東京の公園では、いつだって街のノイズが聞こえてくる。人工物が奏でる通奏低音は、そこに人々が住み、営みを重ねることで生まれてくる、街のリズムを司る音だ。

 でも、公園は、ほんものの自然への入り口でもある。じっと座っていれば、別の音が、聞こえてくるような気もしてくる。例えばシーズンオフの山中や、深夜の海岸。そこに立ったときに聞こえてくる、あの、ゆるやかにループする鼓動。単調なリズムに乗っかってくる、木々や草や水面を通る風が運ぶ、雲の切れ目からさす一筋の光を連想させる、かすかな旋律。

 公園は、こっち側とあっち側の狭間にある場所だ。砂浜が広がる小さな川の河口のように、そこには、ふたつの要素が混じり合いながらも平穏である。ただ、どちらにも属さない、いわば「どこでもない場所」だ。

 東京のはずれにある等々力渓谷は、木が茂る本当の渓谷がどんな具合か。本当の田舎にある裏山の渓流がどんな具合か、そして、東京が本来どんな地形のところだったのかを彷彿とさせる場所だ。崖上には家屋が迫っているが、東京に唯一の残された自然の渓谷を歩けば、それぞれの「片鱗」が伺い知ることは出来る。天然の渓谷が残されている分だけ、その割合が、他に比べて高い。

 あっち側はどうなっているのだろう。すぐそばを流れる多摩川を渡った、東京の向こう側、そのまたずっと先にある、ひっそりとした自然は、どうなっているのだろう。川によって区切られた「こちら側」の公園を歩くぼくは、そう思う。そして、東京を出ることをふと考える。

 渓谷からよじ登ると近辺は実に閑静な住宅街だ。てくてく歩いて多摩川べりに行っても、等々力駅に戻って電車に乗り、九品仏を見ても、五島美術館の庭園を見ても、いずれにしても平穏な1日を過ごせる。

 東京の端っこにある公園は、穏やかに、今日もあの頃と変わらない自然の姿をかいま、僕たちに見せ続けている。

 ♣♣♣

等々力渓谷公園(とどろきけいこくこうえん)
*所在地:世田谷区等々力1-22,2-37,38
*アクセス:東急大井町線「等々力」駅下車 徒歩3分、他

ミシュラン(☆3つが最高)
ひとり: ☆☆  渓谷にある滝では滝行も行なえるそう。刺激的な1日を過ごしたい方はどうぞ。
ふたり: ☆☆  入り口にある料亭や等々力不動、そして周辺の町並みなど見所はたくさんあり。
おおぜい:☆   少し離れますが岡本静嘉堂の周辺は鬱蒼とした雰囲気。美術館鑑賞と併せて。
[PR]

by na2on | 2010-05-05 22:08 | 公園案内2


<< みどりのある風景。      高浜公園 ひずんでます。 >>