カテゴリ:はじめに。( 1 )

2010年 04月 09日
はじめに。
 このブログは、東京の23区内の素敵な公園を案内するコラム集です。

 ぼくが、少し前に載せるあてもなく書きためていた、自分の気にいった公園についての文章に、アクセス方法や、「ひとり」「ふたり」「大勢」で行く際のおすすめ度などを付け足しました。

 東京が、とても魅力的な町だと思ったのは、もうずいぶん前、東北地方の大学を受けようと思って、生まれ育った町から、ひとり東海道新幹線に乗った時のことです。

 東海道新幹線は品川を超え、東京駅に近づくと山手線や京浜東北線といった電車と並走し出します。その時も、ぼくの乗った新幹線は軽快にそれらの通勤電車を追い越していきました。何気なく抜かされていく電車を見ると、中には大勢の人たちが乗っていました。ラッシュアワーも過ぎ、晴れた午前の光を浴びた電車の中の人たちは、窓の外をぼんやり眺めたり、本を読んでいたり、互いに話し合ったりしていました。その光景を見て、ぼくは突然「東京に住みたい」と感じました。

 それまでも東京には何度か来たことはありました。でも、その瞬間まで、さしたる思い入れも、むろん住む気も全くなかった場所に、理由も分からず、とても強い思いが生まれたのです。そのことにとまどいながら、ぼくは、自分自身の思いを受け入れるべきかどうか、呆然としながら考えていました。
 
 結局その時は、東京は通過したまま東北の町ですごすことになりました。そして、何年かの後、ぼくはようやく「あの時」以来憧れとなった東京にやってきました。居場所が決まるまで、先に上京した先輩に盲愛っぷりをさんざんからかわれながら、何度も泊めてもらったものです。

 住んでみると、やはり、東京には大勢の人がいました。でも、自分にとっての友だちも知り合いもほとんどいないから、休みになると、ぼくは自転車に乗ってあてもなく走り回りました。どこへ行っても家並みが続いていましたが、どの町にも、独特の個性のようなものがありました。遠くから見ると東京という単色に見えるのが、近くで見てみると、町ごとに色合いが異なっているさまが、良く出来た絵画を見ているようで面白いと感じました。

 東京はみどりの多い町だとも感じました。街路樹が並び、巨木は大切にされ、そして、どの町にも、必ず公園があるからそう感じるのだと気づきました。そして、いい町には必ず、素敵な公園がある。というか、町の個性は公園に行けば見えてくる、そんなことも分かってきました。人が公園を作るわけです。

 そんな、人が多いからこそ出来上がった、多色刷りの町の中から、自らの心地よい場所を探し、人々とのつながりを作り上げていくことができる。大学入試の時のぼくは、人の多さに魅力を感じたのですが、もう少し奥を探れば、コミュニティ、というか「たたずまい」の多様さに自由と魅力を感じるようになっていたのです。

 そんなことを感じるきっかけとなったのは、近所に住んでいたある女の子です。ひょんなことで知り合った彼女は、散歩が大好きで、自分の庭のように近所の公園に行っていました。彼女は、公園の木々や草花や動物の季節による変わり具合をいとおしみ、公園に集う人たちの様子を見たり、話をすることを心から楽しんでいました。彼女の後ろにくっついて歩くと、自分の住んでいる町もなかなかいいところだとしみじみ感じることができました。

 仲良くなった友だちと、彼の住む町の公園に行って、うたも作りました。彼もまた自分の庭を紹介するかのようにギターを持って、広々としたその公園の芝生ぼくを連れて行ってくれました。そこでぼくたちはビールを飲んで、大声を張り上げてうたいたいことだけをうたいました。その友だちと会えなくなってからも、ぼくは、初夏のはれた日になると、かならず、その時の、ちくちくほほをさす草の感触と、むっとした草いきれを思い出します。

 まあ、ずいぶん遅い青春じゃあないかとも思いますが、とにかく、ぼくは東京に来て、本当にいろんなことを公園を通して味わってきました。公園には不思議といろんな人が集まって、みどりの中で、レイドバックしたきままな時間を過ごしていました。

 公園は、都会の中にある小さなみどりの箱庭です。そこでは、手つかずの山や海と同じに、自然が1年でひと巡りするの営みを毎日たんたんと続けていることが見て取れる場所です。だからこそ、人たちは開放された気分になったり、リラックスもするのでしょう。でも、同時に公園はほんものの自然ではありません。はっきりと人の手の入った、人工的な都会とほんものの自然、こっち側とあっち側のはざまにある、ちょっと独特な場所だとも思います。

 しばらく東京に住み慣れたかな、と思ってきた頃、そんな「公園」をキーワードにして「東京」を切り取ってみたらどうだろう、と思うようになりました。誰をもフラットに受け入れる町のスイートスポットとして公園を捉えて、それを通してぼくが感じる多色刷りの「東京」の魅力を表現したいと思ったのです。

 なんてポーズを取ろうにも、実際は車もないから、バスと電車と、何より足で、てくてく歩いて、ノートに気づいたことを書き付けていただけです。でも、本当は仕事で始めたのですが、途中でそのプロジェクトが中止となってしまってからも、ぼくは、歩き続けました。公園をめぐるのは、リアルに、楽しかったのです。

 そうやって見て回った中で、遠くから1日かけても行くだけの魅力がある、と感じる公園をピックアップして、そこの様子を書いたのが、今回出していくコラムです。ここだったら、きっとあなたなりの楽しみ方ができるはず、そして、その公園がある町のことが好きになれる。そんなところばかりです。

 自分で書いたものからの引用ですが、気持ちのいい公園は、おいしいパン屋や、セレクトにこだわりを感じる本屋のようなものだと思います。そういう場所があると、その町に住むことが楽しくなって、素敵なつながりが出来ていく。ぼくたちは、そうやって、町に根付いていく。憧れだった東京にもうずいぶん長く住んでいるぼくは、今では、そんな風に思っています。
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by na2on | 2010-04-09 02:30 | はじめに。