2010年 04月 10日
23区内でも世田谷は特に公園のレベルが高い区だ。 今回紹介する砧公園のそばに限っても、大蔵運動公園の崖の上から見る景色はなかなかのものだし、その先につながる公社大蔵住宅に広がる奇麗な小川と泉のある緑地は、団地に住む人たちが計画に参加して作った親密感がある。ちょっと足を伸ばして岡本公園民家園の江戸時代の農家と、周辺の丘陵地帯の風景や、往時の「村」の雰囲気を見事に再現した次大夫堀公園は、いつ遊びに行っても満足できるものだと思う。 そんな世田谷の公園を代表するような砧公園は、都内でも有数の広さを持っているし、美術館が隣接していることもあり、誰が行っても、間違いなく1日たっぷりとなごめる公園だ。 でも、ここはやっぱり、どんなに大きくてオープンだとしても、本質は近所に住む人たちのための公園だと思う。 ある日、前述した大蔵運動公園の崖下を歩いていると、向こうから品のいい老婦人が来て、話しかけられた。 近くを散歩するのが日課だが、今日は少し遠出をして歩いている、と言うその人に、ここら辺はいいところですね、と言葉を返すと、桜が咲く時期の砧公園の美しさについて教えてくれた。 「本当に見事なんです」 公園の中でもひときわお気に入りのしだれ桜について語る老婦人の顔はとても嬉しそうだった。 ゴルフ場だった往年を彷彿とさせるなだらかな起伏を持って連なる芝生や、ところどころに立ち並ぶ木立、芝生の真ん中を流れるクリーク、そして奥にひっそりと広がるバードサンクチュアリ。穏やかな光景の中で、いつだって、人々が点在して、それぞれの時間を過ごしている。 晴れた日の夕方、歩いてみる。 犬を連れた人たちとすれ違う散歩道から木立へと分け入る。木々の枝の向こうに広がる草はらでは、子供たちが太陽の最後の一片までも使い尽くすように、サッカーに精を出している。ところどころにシロツメ草がまとまって植えられた芝生を横切ってゆくと、丘を越えたそのまた向こうの木立から、バグパイプの音が聴こえてくる。幾層にも重なった途切れることのないふくよかな音色が、風にのって夕暮れの公園をやわらかくつつみこむ。その音に送られるようにして、老夫婦が家路につくその脇を、ジョギングする女性が追い抜いてゆく。ベンチで読書を続ける女の子は、頭上の街灯を頼りに、今日は気のゆくまで本を読みながら時間を過ごすのだろう。 土は、昼の熱気をおだやかに吐き出し、あたりに次第にただよってきた、ひんやりとした夜の空気を吸い込む準備を静かにはじめる。 そんないつもどおりの繰り返し。 1日の終わりに、いつもどおりに足を運んで、自分たちの大切な時間を過ごしてから、家へと戻る。そんな場所として、近所の人たちは、砧公園をとても大切にしてきているのだと思う。 よそから来て、ちょっとだけぎくしゃく歩いたり寝転んだりしているぼくは、ちょっとだけそんな彼らがうらやましい。ちょっとだけ。 ♣♣♣ 砧公園(きぬたこうえん) *所在地:世田谷区砧公園1-1 *アクセス:小田急線「千歳船橋」から東急バス(田園調布行き)「砧公園緑地入口」下車/小田急線「成城学園前」から東急バス(都立大学駅北口行き)「岡本一丁目」下車/東急田園都市線「用賀」下車 徒歩20分または東急コーチバス(美術館行き)「美術館」下車 *その他付帯設備:園内に世田谷美術館(TEL03-3415-6011)●開館時間10:00〜18:00(入館は17:30まで)/●休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)、12月29日〜1月3日。 ミシュラン(☆3つが最高) *ひとり: ☆☆☆ ひとりで気ままな時間を過ごそうと思ったら、芝生も木立もあるこの公園は、最高に近い環境が揃っていると思います。 *ふたり: ☆☆ 用賀駅からバスに乗って、世田谷美術館で鑑賞しつつ、レストランでご飯食べて公園へ、というのもなかなか魅力あり。 *おおぜい:☆☆ ゆるやかな起伏の草はらの木陰で寝転んだりしながら過ごす1日も楽しそう。成城学園でおいしいものもたくさん揃います。
by na2on
| 2010-04-10 22:44
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