2010年 05月 06日
春の訪れとともに、すぐ近くのプロスペクト公園がソフィーお気に入りの憩いの場となった。思い出すのもなつかしいが、当時その公園は孤独な美しい金髪女性が安心して散歩できる場所だった。金色まだらの緑の葉陰から洩れ来る花粉にけむる光の中、草原に波打つ草の上にぬっとそびえたつニセアカシアやニレの大木の下では、ワトーやフラゴナールの風景画に描かれた田園の祝祭でも始まりそうな気配だ。仕事休みの日や週末にソフィーがすてきな昼食をたずさえて身を置くのも、こうした大樹の下だった。 『ソフィーの選択』ウィリアム・スタイロン著(大浦暁生訳)より ♣♣♣ 全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、 さはやかな匂、夏のすゞしい陰、月光色の芝生が これから何千人の人たちに 本当のさいはひが何だかを教へるか数へられませんでした。 そして林は虔十の居た時の通り雨が 降ってはすき透る冷たい雫を みじかい草にポタリポタリと落とし お日さまが輝いては 新しい奇麗な空気をさはやかにはき出すのでした。 『虔十公園林』宮沢賢治著より ♣♣♣ 「おかしいな。」 松井さんは車をとめて、考えかんがえ、まどのそとを見ました。 そこは、小さな団地のまえの小さな野原でした。 白いチョウが、二十も三十も、いえ、もっとたくさんとんでいました。クローバーが青あおとひろがり、わた毛ときいろの花のまざったタンポポが、てんてんのもようになってさいています。その上を、おどるようにとんでいるチョウをぼんやり見ているうち、松井さんには、こんな声がきこえてきました。 「よかったね。」 「よかったよ。」 「よかったね。」 「よかったよ。」 それは、シャボン玉のはじけるような、小さな小さな声でした。 『車のいろは空のいろ』あまんきみこ著より
by na2on
| 2010-05-06 21:39
| よりみち。
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